2017年8月18日金曜日

【ネタバレあり】原作も見た私によるアニメ映画「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」の感想


アニメ映画の「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」の感想を、原作もリアルタイムで見ていた私が書いてみようかなと。やっぱりなんか言いたくなってしまうね。

私は初日に観ました。観た回は都内の夜の回だったんだけど、ギリギリ全部は埋まってなかった感じだから、そこそこの興行収入で終わりそうな雰囲気。同じプロデューサーが手掛けた「君の名は。」には遠く及ばなそう。

映画が終わって聞こえてきた声は「難しくてよく分からない」ってのが多くて、「えっ?」ってなっちゃった。でも、重要なことを最初に言っておくと、原作はタイムリープ物ではないからね!

あと、原作ドラマよりも尺が長い分、話が間延びしてしまったところはあるけれども、思った以上に原作準拠だったのは驚いた。「観月ありさ~~!」って叫ぶところ、そのままやったよ!ってなって、ちょっと吹いてしまったよ、私だけ。

ちなみに観月ありさってのは当時牧瀬里穂と人気を二分していたアイドルのことね。今で言うと橋本環奈さんとかまゆゆとかが立ち位置が近いのかも知れないけど、当時のアイドルはもっと人気が集中していたから、ね。誰の名前を叫ぶのかと思ったら原作のまんまだったから驚いたわ(笑)。

ということで、「難しい」という声が多かったようなので、そこからちょっと書いていこうかなと。

ドラマ版の原作と今回のアニメ版映画の「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」のあらすじの違いについて


原作のドラマ版と今回のアニメ版の「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」の一番の違いは、タイムリープ物かそうじゃないか、というところが大きいと思う。

原作のドラマは「if もしも」 という、世にも奇妙な物語の後番組として制作されたオムニバスドラマ企画です。要は、世にも奇妙な物語の雰囲気を引き継いだ番組だったのです。司会もタモリだったし。

で、ストーリーの途中で分岐点が発生し、最初にバッドエンドを描いて、その後ハッピーエンドの選択肢を選んだ場合のストーリーを描く、というのがこの番組のフォーマットなのです。

だから、アニメ版だけを観た人に向けて書いておくと、最初の分岐点まではバッドエンドの原作通りです。安曇くん(CV宮野真守)と花火大会に一緒に行こうとなずなが誘ったのに安曇がすっぽかして、なずなが母親に連れ去られるあそこまでの流れね。あれが原作のバッドエンドです。

で、ここからが原作とアニメの違いなんだけど、原作だと、「もしもあのとき俺が勝っていたら…」って島田(CV菅田将暉)のモノローグが出た後、ハッピーエンドバージョンに移行するんですよ。

あんなダラダラ何度もタイムリープをしないし、そもそもタイムリープアイテムのビー玉も出ません。原作はタイムリープ物ではないからね。

二人で駆け落ちして、駅の場面になって、別に親にも連れ戻されずに結局学校のプールでキャッキャウフフするという流れですよ。アニメでも掛かったこの曲が流れながらね。


そんで、なずなとデートできなかった子どもたちの方は、灯台にも行けずに道半ばで好きな相手を叫ぶあのシーンですよ。

シンプルな流れだから、当時子供だった私でも話の流れはわかったし、難しいなんて感想は全く抱かなかった。

今回はビー玉をタイムリープアイテムに設定してしまったことで、バッドエンドが何回も発生し、その度にビー玉投げて、分岐を修正していく、みたいな流れになったがゆえに、話が難しいと感じた人が多く出てしまったんじゃないかねぇ?

花火が平べったくなったり、花びら付きの花火が現れたり、ものや空間が歪んだ世界が現れて、花火師(CV立木文彦)が打ち上げた花火で世界を壊したりとか、平行世界的なもの、閉鎖空間的なものを説明なしに出しているので、そりゃ観てる方は混乱するわな。

あの手のものは原作では一切出ません!バッドエンドの分岐が最初に描かれ、その後にハッピーエンドの分岐が描かれるだけ。

ドラマ版の原作は45分くらいだったのに、アニメ版の今回のは90分で、尺が倍になった分、話を伸ばす必要が出て、結果複雑になってしまったのかもねぇ。正直話が間延びしてるなぁって観てて思ったわ。

ドラマ版とアニメ版の「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」どちらが好きか?


これ、もうここまで読んだら私がどちらが好きなのかは言うまでもないと思うのですが、私はドラマ版の方が好きです。

ストーリーラインそのものは、尺を伸ばすための複雑な設定がいくつか入った以外は、結構近いんです。ただ、ほとんど同じストーリーを使っている分、作家性の違いが大きく出てしまっているんですよね。

アニメ版観て、原作が気になった人は、ぜひドラマ版も観てもらいたいなと思うのですが、岩井俊二監督のドラマ版の「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」は、どこかノスタルジックな美しさがある、という岩井俊二監督の作家性がすごく反映されているんです。

これは、まだ映画監督になる前の、ドラマのディレクターであった時代の初期の岩井俊二氏の作品には特に顕著に出ています。ゴーストスープとか、この作品とか。

このドラマが放送された「if もしも」の枠の作品の中でも、「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」は異質で、基本、世にも奇妙な物語の後釜枠なわけだから、怖い感じの作風になるわけですよ、この枠の他のドラマとかね。

でも、このドラマは全然怖くないから。ノスタルジックな美しさが圧倒的で、ヒロインのなずな役を当時やっていた奥菜恵のマドンナっぷりが圧倒的で、あー、小学校時代、たしかにそんな感じのマドンナがいたなぁ(いないけど)、あの子と一緒に「カケオチ」したかったなぁ、とノスタルジックに妄想してしまうわけですよ。

そんなわけで、「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」で、圧倒的な才能を発揮し、評価を得た岩井俊二氏は、このドラマをきっかけに、この作品が映画館でも上映され、映画監督へとステップアップしていくわけです。


で、アニメ版を観ていて思ったのは、やっぱり岩井俊二監督の作家性に依存する、この「ノスタルジックな美しさ」が消えてしまっているんですよ、これはしょうがないことではあるのだけど。

代わりに、演出の随所にアニメ制作会社のシャフトらしさが出ていて、化物語のキャラデザを手掛けた渡辺明夫氏の絵柄や、同じく化物語の新房昭之監督特有のシャフト演出とか、そのへんが好きな人は堪能できるんじゃないかなとも思います。

ストーリーラインがほぼ同じなだけに、作家性の違いが大きく出るな、というのはすごく観ていて感じたところです。ここで原作のドラマ版派か、アニメ版派かが大きく分かれそうですね。

声優のキャスティング権限は監督ではなくプロデューサーが持っている?


今回の「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」 の制作秘話に関して、いろいろ見ていく中で興味深い記事があったので、その感想も。この記事ね。
新房昭之監督、『打ち上げ花火』で"役者"陣をどうまとめ上げた? - 俳優と声優、それぞれの存在感と演技の魅力語る「生っぽさが全体の空気を決めている」
キャストは「声優さんで良いんじゃないかとも思った」

――声のお話が出てきましたので、ここで読者から届いた「なぜアニメ映画の声に役者を使うのか?」という疑問をぶつけてみようと思ったのですが、本作では川村さんが広瀬さんらを起用しようと考えられたのですよね。

そうです。メインキャラは川村さんにお任せしました。まぁ声のサンプルを聞いたりはしましたけれど。
 特に気になったのは、新房監督へのインタビューの上記の部分。どうも今回、メインキャラのキャスティングは、新房監督ではなく、「君の名は。」のプロデューサーでもある川村元気氏が手がけた、ということみたいなんですよね。

アニメ業界の中にはいない私や、他のライトなアニメファンとかは、声優のキャスティング権って、監督や音響監督が持っているもの、とイメージする人も多いんじゃないかと思うのだけど、このインタビュー見る限りは、どう見てもキャスティング権持っているのはプロデューサーですよね。

幼女戦記というアニメ作品でも、プロデューサーの田中翔氏が声優の悠木碧さんを推して、それが決まったという事例もあったし。
悠木碧さん、KADOKAWAのアニメPのお気に入りだった?
P「(幼女戦記の)悠木さんの演技に是非とも…」
悠木「嬉しい!」

P「注目してもらいたいなと思います。やっぱりオーディションで聴いた時も鳥肌が立ちましたし、アフレコブースで聴いてる時も『この人おかしいな、頭は天才だな』といつも思う」
悠木「あはは。この人おかしい、頭は天才だなって、ちょっと繕いましたね今ね」

P「すいません オーバーロードも自分プロデューサーを務めさせて頂いたんですけど」
悠木「ありがとうございます!」

P「クレマンティーヌ役に碧さんを推したのも自分だったりする」
悠木「嬉しいです!」
この辺踏まえると、声優のキャスティング権を持っているのはプロデューサーなのかな、というのが今回気になったところです。

個人的には、「この世界の片隅に」のすずさんは、のん(本名:能年玲奈)さんのキャスティングで完璧によかったと思っているのですが、今回の「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」で役者さんを起用した良さを感じたかというと、う~ん、特に感じなかったな~。

そうすると、アニヲタ以外の一般人にも広く観てもらうために、「宣伝目的」で川村プロデューサーが役者さんをキャスティングしたのかな、と考えてしまいましたね、私は。


まぁ、でも思った以上に、「観月ありさ~~!」も含めて原作準拠でしたし(笑)、原作ファンが観ても、化物語や新房監督のファンが観ても、それなりに楽しめる作品になっているんじゃないかな、という無難なまとめで「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」の感想を終えとこうと思います。

過去に書いた「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」の記事。
「世にも奇妙な物語」で一番印象に残ってる話ってやっぱ岩井俊二の花火のやつだろ
おんなじようなこと書いてるな(笑)。ゴーストスープと打ち上げ花火とLove Letterあたりの岩井俊二監督の初期作品はやっぱり好きですね。