このドラマのキーワードとなったのが「出向」だ。銀行員にとっては、一度行ったら二度と戻れぬ「片道切符」、出向とは、まさに「左遷」のことである。そんな左遷先の中でも、劇中では最低の赴任地のように描かれた都市があった。その市民からは怒りの声が大噴出していたのだ。ということなんだけど、親友を裏切ってまで行きたくない街なのかって、行きたいわけねーだろ!
〈半沢直樹って根室を馬鹿にしてるでしょ〉
〈根室の方って差別されてる?〉
9月下旬、ネットには冒頭のような書き込みがあふれた。
恐らく国民の大半は「根室?」と思ったのではないか。ドラマの中で根室が登場したのは、ほんの一瞬だったから無理もない。
それは、第9話の終盤のことだ──。
半沢の同期であり親友でもある近藤直弼(滝藤賢一=36=)は、東京中央銀行秘書課から呼び出しを受ける。指定された料亭で待っていると、そこに現れたのは半沢の最大の敵、大和田常務と岸川部長だった。大和田は、近藤が持っている自身の不正の証拠となる報告書を取り上げようと、こう口火を切る。
「キミはまもなく出向すると聞いているが‥‥」
岸川が合いの手を入れ、こう続けるのだ。
「確か、根室だったね」
ドラマの中で「根室」という名前が出たのは、この時だけである。しかし、このあとの大和田のセリフが根室市民の怒りを買うのに十分すぎた。
ただし東京からは、ということだ。もしドラマの舞台が札幌やら、北の国からの富良野みたいな
ところから根室に転勤ということであればそれはなんの問題もないよ。
でも東京の都会の暮らしがあって、塾に行きたい子供がいて、受験を視野に入れて環境の
整った塾で勉強させてあげたいと考えている家族が根室に行くってことは、そうした生活を
諦めるってことになるからね。生活スタイルが違いすぎるし、東京からみたら寒い北海道の
最果てにいくとか嫌に決まってんじゃん!何を言っているんだ。
まぁそれは差別とかじゃなくて都市型の生活を送りたい人にとって根室は嫌というだけであって、
都会の派閥闘争・足の引っ張り合いに疲れて、そんなもののない時間の流れがゆったりした
ところで暮らしたい、流氷の見られる毎日でありたい、子供は穏やかな性格に育ってほしいって
近藤一家が考えているなら話は全く変わるわけよ。根室でいいじゃんってなる。
池井戸 潤
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