2015年11月19日木曜日

本を最初から文庫で出さない理由は製作コストを初版で回収する必要があるため

なぜ最初から文庫本で出さないのか?
 より本質的な理由としては、「想定読者数(≒初版部数)」の問題があります。もし、新書、四六判、文庫など自由な判型が選びうる編集部で企画が進んだ場合、問題になるのは、この本を何人くらいの読者が求めてくれるか? という点です。本を作る編集やデザインの作業というのは、どんな装幀でも実はさして大きくコストが変わるわけではありません(紙代や印刷費は変わります。部数が増えれば安くなるので、文庫本で部数が多いものは負担少ないです)。つまり、書籍の値段の本質は「(作者が著述に要したコスト+編集やデザインにかかったコスト+必要な利益)を初期読者がシェアして負担する。」ということなのです。
たとえば「5000人しかかってくれそうにない」「だったら3000円にしないとまずいな」「じゃあ判型は文芸で表紙もハードカバーにするか」というような展開で判型は決まります。この段階で幾つか疑問が発生すると思います。
Q.3000円の文庫本じゃだめなの?
A.読者の皆さんは3000円の文庫は買ってくれないです。読書体験は文庫でも四六判でも(内容という意味で)大差はありませんが、物質商品としては購入してもらえなくなります。出版人として自分が関わった3000円の本がソーシャルゲームのガチャ6回に劣るとは思っていませんが、やはり売れない物は売れません。
あー、なるほどね!そういうことなのね。

・本の製作にまつわるイニシャルコストは初版で回収をする
・初版の想定販売部数から本の単価が決まってくる
・あまり売れない本の場合、本の単価を高くしなければならないので出版版型はハードカバーになる
・なぜなら3000円の文庫本など物質商品としての価値を読者に感じてもらえないので売れない
・作家に付いているファン(≒初版読者)は値段に関係なく購入するので、安くしたからといってより多く売れるわけではない

ということか。これ、深夜アニメのコスト回収構造と似ているね。大ヒットした深夜アニメになると、
そのうち全話収録したアニメDVDがこんな感じで出回るようになるんだけど、

アニメ制作のコストを回収しているのは、そういった廉価版のものではなくて、初版のBlu-rayなわけじゃん。
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上記の例で言うと、初回限定生産盤のBlu-rayは6700円で2話しか収録されていないわけだけど、
逆輸入ものの廉価版全話収録DVDなら4880円で買えるから、話を全部観たいだけなら廉価版の
方を買ったほうがコスパはいいわけだけど、製作コストを負担しているのはそっちを買っている人
ではないと。

円盤なんてそんなに売れるものじゃないから、必然的にコストが高くなり、コストに見合う価値を
初版購入者に感じてもらうために、声優のイベント参加券を付けたり、出演者や監督・スタッフ
などが、作品を観ながらコメントを付けていくオーディオコメンタリー映像の特典なんかを付けたり
するというおまけを付けた売り方が一般的になっている。

ゲームでも同じことが言えるね。出た当時9240円くらいしたファイナルファンタジー13が、
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後になってヒットゲームを廉価版として販売するアルティメットヒッツシリーズとして発売されるという構造。
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アルティメットヒッツ版のFF13は、当時の定価は3990円だったみたいね。これが文庫に相当する
ものってことだよね。でもアルティメットヒッツを最初から出せというゲームファンはまさかいないわけで。
なんで廉価版が出たのか、いや、出せたのかを知っているわけだからね。


言われてみれば納得だが、本に関しては初版でコストを回収しているという発想が今までなかったなぁ。